東京地方裁判所 平成9年(ワ)22684号 判決 1999年7月29日
原告
臼居由希代
ほか一名
被告
唐倉典子
ほか二名
主文
一 被告唐倉典子及び被告安村玲子は、連帯して、原告臼居由希代に対し一億一六五四万二九八九円、原告臼居彰に対し四四〇万円及びこれらに対する平成六年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日動火災海上保険株式会社は、被告唐倉典子及び被告安村玲子と連帯して、一項の判決が確定するのを条件として、原告臼居由希代に対し、一億一六五四万二九八九円、原告臼居彰に対し四四〇万円及びこれらに対する平成六年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の本件各請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
一 被告唐倉典子及び被告安村玲子は、連帯して、原告臼居由希代に対し二億一五三八万八四九〇円、原告臼居彰に対し一一〇〇万円及びこれらに対する平成六年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日動火災海上保険株式会社は、被告唐倉典子及び被告安村玲子と連帯して、一項の判決が確定するのを条件として、原告臼居由希代に対し、二億一五三八万八四九〇円、原告臼居彰に対し一一〇〇万円及びこれらに対する平成六年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、普通乗用自動車に同乗中、後記交通事故により傷害を負った原告臼居由希代(以下「原告由希代」という。)及びその夫である原告臼居彰(以下「原告彰」という。)が、加害運転者である被告唐倉典子(以下「被告唐倉」という。)に対し民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、加害車の所有者である被告安村玲子(以下「被告安村」という。)に対し自賠法三条に基づき、被告日動火災海上保険株式会社(以下「被告日動火災」という。)に対し自動車保険契約に基づき、右事故によって原告らに生じた損害の賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実、証拠〔甲第一ないし第八号〕及び弁論の全趣旨により認める。)
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 事故の日時 平成六年一一月五日午前三時二五分ころ
(二) 事故の場所 神奈川県横浜市戸塚区柏尾町八二〇先路上(以下「本件事故現場」という。)
(三) 被告車 普通乗用自動車(横浜三三に一五九七、運転者・被告唐倉、所有者・被告安村)
(四) 事故の態様 被告唐倉が、被告車を運転して、保土ヶ谷方面から不動坂方面に向かって片側一車線の車道と歩道の区別のある制限速度が時速四〇キロメートルと規制されている道路を時速約一一〇キロメートルで走行中、ゆるやかに右カーブをしている本件事故現場付近で、飲酒の影響などのため、ハンドル操作を誤り、歩道に飛び出して電柱に衝突した。被告唐倉は、呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラムのアルコールを保有する状態であった。
2 原告由希代の治療状況等
(一) 原告由希代は、本件事故により、頸髄損傷、第四、五、六頸椎脱臼骨折、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、両鎖骨骨折、右腎被膜下出血の傷害を負い、治療のために、以下の通り入院した。
(1) 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院(以下、「聖マリアンナ病院」という。)
平成六年一一月一三四(ママ)日から同七年一一月一三日まで(三七四日)
(2) 神奈川リハビリテーション病院
平成七年一一月一三日から同八年五月二六日まで(一九六日)
(二) 後遺障害
原告由希代は、平成七年七月一三日に症状が固定したが、頸髄損傷による四肢完全麻痺、膀胱直腸障害等の後遺障害が残り、後遺障害等級一級三号の認定を受けている。
3 損害のてん補
原告由希代は、被告の自動車賠償責任保険から三〇〇〇万円、被告の任意保険会社から合計で五二八万二八八〇円のてん補を受けた。
4 責任原因
(一) 被告唐倉は、本件事故につき前記1(四)の過失が認められるから、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、被告安村は、運行供用者として自賠法三条に基づき、それぞれ原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告日動火災は、被告車について訴外水野修孝との間で自動車保険契約を締結しており、この保険契約に基き、原告らに生じた損害を直接賠償すべき責任がある。
三 争点1(好意同乗減額の有無及び割合)
1 被告らの主張
原告由希代は、被告唐倉と訴外曽根田朋美の三名でカラオケレストランで飲酒その他の遊興をするために被告車で出かけ、同所で、飲酒をした後、被告車で帰宅する途中に本件事故が発生したもので、原告由希代も被告唐倉の運転行為の危険性を認識しつつ被告車に同乗していたから、原告らの損害を算定するについては、過失相殺の法理に基づき五割の減額をすべきである。
2 原告らの主張
原告由希代は、タクシーを利用して帰宅する予定であったが、泥酔していたため、飲酒した被告唐倉の運転する被告車に乗車したこと自体も認識していなかったし、原告由希代が泥酔したのは、被告唐倉によって飲まされた錠剤が原因であったから、過失相殺の法理により減額をすべきではない。
四 争点2(原告らの損害)
1 原告らの主張
(一) 原告由希代の損害
(1) 治療費 合計 四二八万五三八〇円
<1> 聖マリアンナ病院 四二四万七八八〇円
<2> 神奈川リハビリテーション病院 三万四五〇〇円
<3> 横浜市総合リハビリテーションセンター 三〇〇〇円
(2) 付添看護費等 合計七〇九八万五八二五円
<1> 症状固定まで 二五一万円
聖マリアンナ病院に入院した平成六年一一月五日から症状固定の同七年七月一三日までの二五一日間、原告由希代の夫である原告彰が、付添看護を行った。個人事業の営業主である原告彰は、本来は事業に従事しなければならないにもかかわらず、原告由希代が重傷を負ったため、あえて付添看護をせざるを得なかったものであり、その費用は、少くとも一日当たり一万円を下回ることはない。
よって、一日当たりの付添看護費を一万円として算定すると、症状固定までの付添看護費は、以下のとおり二五一万円となる。
一万円×二五一日=二五一万円
<2> 症状固定後の介護費用 六八四七万五八二五円
症状固定後の平成七年七月一四日から聖マリアンナ病院を退院する同七年一一月一三日までの一二三日間は、夫である原告彰が、その後、神奈川リハビリテーション病院に転院した右同日以降は、原告彰と原告由希代の妹である訴外前田倫枝が、交替で付添看護を行っている。その付添費用は、一日当たり一万円を下回ることはない。
原告由希代は、症状固定時二六歳であり、その平均余命は五七年であるから、一日当たりの付添看護費を一万円として、症状固定後の付添看護費用を算定すると、以下のとおり、六八四七万五八二五円となる。
一万円×三六五日×一八・七六〇五(五七年間のライプニッツ係数)=六八四七万五八二五円
(3) 交通費 合計 一三七万四八三三円
<1> 聖マリアンナ病院から神奈川リハビリテーション病院への搬送費用 六二八〇円
<2> 神奈川リハビリテーション病院において、退院に備えて、自宅介護準備としての外泊訓練を行った際の交通費 四万六〇一五円
<3> 神奈川リハビリテーション病院の退院交通費 六七九四円
<4> 付添交通費 一〇三万八四八〇円
原告彰及び訴外前田倫枝が、聖マリアンナ病院及び神奈川リハビリテーション病院において、付添看護を行うに当たって、以下のとおり、交通費の支払を要した。
原告彰 九〇万三四八〇円
訴外前田倫枝 一三万五〇〇〇円
<5> 横浜市総合リハビリテーションセンターへの通院交通費 二七万七二六四円
原告由希代は、平成九年二月から一箇月に一回の割合で、横浜市総合リハビリテーションセンターに通院しており、今後も生涯にわたって、継続して通院治療を受ける必要がある。
通院一回に要する交通費は一二四〇円であり、平成九年二月時点の平均余命である五五年を前提として算定すると、以下のとおり、二七万七二六四円となる。
一二四〇円×一二回(年間通院回数)×一八・六三三四(五五年間のライプニッツ係数)=二七万七二六四円
(4) 入院雑費 七四万一〇〇〇円
全入院期間五七〇日の入院雑費については、一日当たりの入院雑費を一三〇〇円として算定すると、以下のとおり、七四万一〇〇〇円となる。
一三〇〇円×五七〇日=七四万一〇〇〇円
(5) 衛生費 一〇二三万七四二八円
オムツ、ガーゼ等の衛生費については、神奈川リハビリテーション病院退院後の平成八年五月二七日から、平均余命期間である五六年間につき、一日当たり一五〇〇円として算定すると、以下のとおり、一〇二三万七四二八円となる。
一五〇〇円×三六五日×一八・六九八五(五六年間のライプニッツ係数)=一〇二三万七四二八円
(6) 介護用品購入費 合計 一一六四万八八二九円
<1> 手押し車椅子 七六万一四七三円
原告由希代は、平成八年六月一三日、手押し車椅子を購入した。定価は二一万一六五一円であったが、公的補助を受けることができ、実際に支払ったのは四万七八五〇円であった。車椅子については、五年ごとに買替えの必要があるので、平均余命期間の五六年間につき、五年ごとに買替えの必要があるものとして算定すると、以下のとおり、七六万一四七三円となる。
四万七八五〇円(既払分)+二一万一六五一円(定価)×(〇・七八三五+〇・六一三九+〇・四八一〇+〇・三七六八+〇・二九五三+〇・二三一三+〇・一八一二+〇・一四二〇+〇・一一一二+〇・〇八七二+〇・〇六八三)(ライプニッツ係数)=七六万一四七三円
<2> 電動車椅子 一〇二三万八五八二円
原告由希代は、後遺障害等級一級の後遺障害のなかでも最も重い後遺障害を残しており、上下肢が動かないため、介護者が押す必要のある前記手押し車椅子のほかに、電動車椅子も購入する必要があり、その購入費用として一台当たり二三四万二〇一四円の支払を要する。
機械類は、必ず買替えの必要があるところ、平均余命期間の五六年間につき、手押し車椅子と同様に、五年ごとに買替えの必要があるものとして算定すると、以下のとおり、一〇二三万八五八二円となる。
二三四万二〇一四円(既払分)+二三四万二〇一四円(定価)×(〇・七八三五+〇・六一三九+〇・四八一〇+〇・三七六八+〇・二九五三+〇・二三一三+〇・一八一二+〇・一四二〇+〇・一一一二+〇・〇八七二+〇・〇六八三)(ライプニッツ係数)=一〇二三万八五八二円
<3> 介護用ベッド 五七万二一二九円
原告由希代は、平成八年五月二五日、介護用ベッドを購入した。定価は、二七万三〇〇〇円であったが、公的補助を受けることができ、実際に支払ったのは、三万七六五〇円であった。
介護用ベッドは、一般のベッドと異なり、機械製品の色彩が強いため、定期的な買替えの必要が生ずるが、買替期間については、機械類の一般的な減価償却期間である六年を基礎とした上、被告らに有利な二年間を加算した八年が相当である。そこで、平均余命期間の五六年間につき、八年ごとに買替えの必要があるものとして算定すると、以下のとおり、五七万二一二九円となる。
三万七六五〇円(既払分)+二七万三〇〇〇円(定価)×(〇・六七六八+〇・四五八一+〇・三一〇〇+〇・二〇九八+〇・一四二〇+〇・〇九六一+〇・〇六五〇(ライプニッツ係数)=五七万二一二九円
<4> 介護用テーブル、洗髪器、うがいキャッチ 合計五万一三五五円
原告由希代は、平成八年六月三日、介護のために必要な、介護用テーブル、洗髪器、うがいキャッチを合計五万一三五五円で購入し、同額の支払をした。
<5> 蓐瘡防止用枕 一万八五四〇円
原告由希代は、平成八年六月二七日、蓐瘡防止用枕を一万八五四〇円で購入し、同額の支払をした。
<6> 体位固定クッション 六七五〇円
原告由希代は、平成八年五月二三日、介護のため、体位が動かないように固定するのに必要な、体位固定クッションを六七五〇円で購入し、同額の支払をした。
(7) 家屋改造費 二〇三八万六七〇〇円
原告由希代の自宅は、玄関までの通路が長い階段になっている高台に位置しているため、右通路部分に車椅子用の階段昇降機を設置する必要があり、その他、室内改造費を合わせると、家屋改造費として二〇三八万六七〇〇円を要する。
(8) 自動車改造費 五五九万三五〇〇円
原告由希代は、体の自由を一〇〇パーセント奪われたため、平成八年一〇月一八日、診察及び介護などのために必要な自動車を、五四〇万二〇五〇円で購入し、同額の支払をした。このうち、自動車改造のためのリフト等架装代は一五〇万円であり、平均余命期間の五六年間につき、自動車を法定耐用年数である六年ごとに買い替えて改造する必要があるものとして算定すると、自動車改造費は、以下のとおり、五五九万三五〇〇円となる。
一五〇万円(既払分)+一五〇万円(改造費)×(〇・七四六二+〇・五五六八+〇・四一五五+〇・三一〇〇+〇・二三一三+〇・一七二六+〇・一二八八+〇・〇九六一十〇・〇七一七)(ライプニッツ係数)=五五九万三五〇〇円
(9) その他 合計 一八万八五七一円
<1> 整理ダンス、整理棚代 一三万七四〇二円
原告由希代の介護を行い易いように、同人の身の回りのものをベッドのある一部屋に集める必要があり、平成八年五月一九日及び同月二八日に、整理ダンス、整理棚を合計金一三万七四〇二円で購入し、同額の支払をした。
<2> テレビ台、キャスター付ワゴン 五万一一六九円
原告由希代が体位を変えるのに応じて、テレビ画面の向きを変える必要があり、平成八年五月二一日及び同月二九日、キャスター付ワゴン及びテレビ台を合計五万一一六九円で購入し、同額の支払をした。
(10) 休業損害 二六一万二〇五〇円
原告由希代は、本件交通事故当時、三歳と五歳の二人の子供を抱える主婦であった。本件交通事故の日である平成六年一一月五日から症状固定の同七年七月一三日までの二五一日間について、原告由希子の家事労働としての休業損害を算定すると、以下のとおり、二六一万二〇五〇円となる。
三七九万八四〇〇円÷三六五日×二五一日=二六一万二〇五〇円
(11) 逸失利益 六七六一万七二五四円
原告由希代の症状固定時の年齢である二六歳から就労可能な六七歳までの四一年間にわたり一〇〇パーセントの労働能力を喪失したことによる逸失利益を算定すると、以下のとおり、六七六一万七二五四円となる。
三九〇万九八〇〇円×一七・二九四三(四一年間のライプニッツ係数)=六七六一万七二五四円
(12) 入通院慰謝料 五〇〇万円
入院期間が五七〇日間に及んでいる上、今後も生涯にわたり継続して経過観察及び治療を受ける必要があることを考えると、入通院慰謝料としては、五〇〇万円が相当である。
(13) 後遺症慰謝料 三〇〇〇万円
四肢完全麻痺、膀胱直腸障害等という、一級後遺障害のなかでも、最も重篤な後遺障害を残すに至ったことを考えると、後遺症慰謝料としては、三〇〇〇万円が相当である。
(14) 弁護士費用 二〇〇〇万円
原告由希代は、本件の訴訟追行を原告代理人に依頼したが、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、右(1)ないし(14)の合計額二億三〇六七万一三七〇円の約一割に相当する二〇〇〇万円が相当である。
(15) 以上の(1)ないし(14)の小計 二億五〇六七万一三七〇円
(16) 損害のてん補 三五二八万二八八〇円
(17) 合計 二億一五三八万八四九〇円
(二) 原告彰の損害
(1) 慰謝料 一〇〇〇万円
原告彰は、妻である原告由希代が常時介護を要する重篤な後遺障害を残すに至ったため、同人の介護のために仕事を休まざるを得なくなり、減給を余儀なくされた。また、本件事故当時、三歳と五歳の二人の子供のいる幸せな家庭であったにもかかわらず、現在は、妻の介護に加え、二人の子供の養育等、多大な負担を負っており、将来の展望もない。したがって、原告彰の精神的負担に対する慰謝料は、一〇〇〇万円を下回ることはない。
(2) 弁護士費用 一〇〇万円
原告彰は、本件の訴訟追行を原告代理人に依頼した。本件交通事故と相当因果関係のある損害としては、金一〇〇万円が相当である。
(3) 合計 一一〇〇万円
2 被告らの主張
(一) 原告由希代の損害
(1) 治療費
治療費としては、症状固定前の分である三四八万〇五五〇円に限るのが相当である。
(2) 付添看護費等
<1> 症状固定まで
症状固定時までの二五一日分については聖マリアンナ病院は完全看護が厳格に実行されている病院であり、家族の付添は必要としないものであるから二五一万円については認められない。
<2> 症状固定後の介護費用
症状固定後の六八四七万五八二二円については、日額一万円は高額にすぎるもので、六〇〇〇円程度が相当であり、これを基に計算すれば四一〇八万五〇〇〇円余りとなる。
(3) 交通費
<1> 原告由希代に関する交通費は、いずれも症状固定後に要した費用であり、認められない。
<2> 原告由希代は完全看護の病院に入院していたものであり、家族については看護料と同様交通費も認めることはできないし、原告らが請求している分は症状固定後のものである。
<3> 横浜市総合リハビリテーションセンターの将来の交通費も認められない。
(4) 入院雑費
症状固定時までの二五一日分については認めるが、一日当たり一〇〇〇円とすべきである。
(5) 衛生費
一日につき八〇〇円程度が相当であり、この金額を基準として計算されるべきである。
(6) 介護用品購入費
手押し車、電動車椅子、介護用ベッドについては、それぞれ初回分は認めるが、それ以後は認めることはできない。また、介護用テーブルの費用は認められない。
(7) 家屋改造費
原告らの主張は、不必要な部分や経費として計上することが不相当である部分があり、機械及び器具も最高のものを選択していることなどに照らし、過大な請求というべきである。仮に原告らが必要と指摘する改造を行うとしても、費用の総額は七八一万円余りにとどまる。
(8) 自動車改造費
自動車に装備するリフトなどの設備について、一回につき一五〇万円というのは高すぎるし、原告由希代の場合、それほどの頻度で使用するものとは思われず、耐用年数を五年とするのは短かすぎる。
(9) その他
タンス、テレビ台などは、通常の生活をしていても必要な品物であり、損害として認めることはできない。
(10) 休業損害
平成七年賃金センサス第一巻第一表に基づく女子の産業計・企業規模計・学歴計の二五歳ないし二九歳の年収は三四一万二五〇〇円であり、これを前提として計算すると、休業損害は二四七万七四八五円となる。
(11) 逸失利益
将来の逸失利益を算定するに当っては、前記統計表の平成七年賃金センサスの女子の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金の三二九万四二〇〇円を基礎にして計算されるべきである。
(12) 入通院慰謝料
原告由希代は症状固定まで二五一日間入院していたから、二五八万円が相当である。
(13) 後遺症慰謝料
二四〇〇万円程度が相当である。
(二) 原告彰の損害
慰謝料の請求額一〇〇〇万円は高額に過ぎる。原告由希代に対する慰謝料の認容額で十分である。
第三当裁判所の判断
一 争点1(好意同乗減額の有無及び割合)
1 原告由希代は、飲酒することを承知で、被告車に乗ってカラオケレストランに行き、同所で飲酒をした後、被告唐倉の運転する被告車に同乗して帰宅していたこと、被告唐倉は、飲酒の上、制限速度を約七〇キロメートルも超過する時速約一一〇キロメートルで走行中、ゆるやかに右カーブをしている本件事故現場付近でハンドル操作を誤り、歩道に飛び出して電柱に衝突したこと、被告唐倉の右過失行為には飲酒が影響していると考えられること、などに照らせば、原告らの損害を算定するについては、公平の観点から二〇パーセントの減額を行うのが相当である。
2 原告らは、原告由希代は、タクシーを利用して帰宅する予定であったが、泥酔していたため、飲酒した被告唐倉の運転する被告車に乗車したこと自体も認識していなかったと主張する。しかし、原告由希代は自ら泥酔するまで飲酒していたことに照らすと、原告らの右の主張事由をもって減額をしない根拠とすることはできない。
3 また、原告らは、原告由希代が泥酔したのは、被告唐倉によって飲まされた錠剤が原因であったと主張し、訴外曽根田朋美の平成一〇年八月七日付けの陳述書(甲第四八号証)中には右主張に沿う部分がある。しかし、曽根田の同七年一月二〇日付けの司法警察員に対する供述調書(乙第一号証)中には、右の事実に関する供述はなく、かえって「チューハイを、いっき飲みした。」旨の供述があることに照らせば、曽根田の前記陳述部分は信用できず、他に原告ら主張の事実を認めるに足る証拠はない。
二 争点2(原告らの損害)
1 原告由希代の損害
本件においては、原告由希代の受けた傷害及び後遺障害の重篤さに照らし、症状固定後のリハビリテーションの必要性も認められる。
(一) 治療費 合計 四二八万五三八〇円
(1) 聖マリアンナ病院 四二四万七八八〇円
甲第九ないし第一八号証により認める。
(2) 神奈川リハビリテーション病院 三万四五〇〇円
甲第一九号証により認める。
(3) 横浜市総合リハビリテーションセンター 三〇〇〇円
甲第二〇号証により認める。
(二) 付添看護費等 合計 四二五九万一四九五円
(1) 症状固定まで 一五〇万六〇〇〇円
原告由希代の症状の重篤さからすると、近親者の入院付添の必要を認める。聖マリアンナ病院に入院した平成六年一一月五日から症状固定の同七年七月一三日までの二五一日間について、一日当たり六〇〇〇円の付添看護費を相当とする。
六〇〇〇円×二五一日=一五〇万六〇〇〇円
(2) 症状固定後の介護費用 四一〇八万五四九五円
症状固定後からの介護費用については近親者介護として一日当たり六〇〇〇円を相当と認める。
原告由希代は、症状固定時二六歳であり、その平均余命は五七年であるから、一日当たりの付添看護費を六〇〇〇円として、症状固定後の付添看護費用を算定すると、以下のとおり、四一〇八万五四九五円となる。六〇〇〇円×三六五日×一八・七六〇五(五七年間のライプニッツ係数)=四一〇八万五四九五円
(三) 交通費 合計 一〇九万七五六九円
(1) 聖マリアンナ病院から神奈川県リハビリテーション病院への搬送費用 六二八〇円
前記(一)の(1)ないし(3)の入院中の交通費については、症状固定後のリハビリテーションの期間も含めて入院の必要性が認められるので、そのための交通費の必要性も認められる。
(2) 神奈川リハビリテーション病院において、退院に備えて、自宅介護準備としての外泊訓練を行った際の交通費 四万六〇一五円
(3) 神奈川リハビリテーション病院の退院交通費 六七九四円
(4) 付添交通費 一〇三万八四八〇円
前記のように、付添看護の必要性が認められるので、その交通費の必要性も認められる。
<1> 原告彰 九〇万三四八〇円
<2> 訴外前田倫技 一三万五〇〇〇円
(5) 横浜市総合リハビリテーションセンターへの通院交通費
右については、後述するように、自動車の改造費を認めるので、その必要性が認められない。
(四) 入院雑費 七四万一〇〇〇円
入院雑費については、前記のようにリハビリテーションの期間を通じて入院の必要性を認め、一日当たり一三〇〇円が相当であるから、七四万一〇〇〇円となる。
一三〇〇円×五七〇日=七四万一〇〇〇円
(五) 衛生費 五四五万九九六二円
衛生費については、弁論の全趣旨から、一日当たり八〇〇円が相当である。これを基礎として算定すると、以下のとおり、五四五万九九六二円となる。
八〇〇円×三六五日×一八・六九八五(五六年間のライプニッツ係数)=五四五万九九六二円
(六) 介護用品購入費 合計 一一六四万八八二九円
(1) 手押し車椅子 七六万一四七三円
車椅子については、平均余命期間の五六年間につき五年ごとの買替えの必要性を認め、将来公的補助が得られるか否か確実とはいえないので、定価の二一万一六五一円(甲第二七号証)を基礎として算定すると、以下のとおり、七六万一四七三円となる。
四万七八五〇円(既払分)+二一万一六五一円(定価)×(〇・七八三五+〇・六一三九+〇・四八一〇+〇・三七六八+〇・二九五三+〇・二三一三+〇・一八一二+〇・一四二〇+〇・一一一二+〇・〇八七二+〇・〇六八三)(ライプニッツ係数)=七六万一四七三円
(2) 電動車椅子 一〇二三万八五八二円
電動車椅子は、平均余命期間の五六年間につき、手押し車椅子と同様に、五年ごとの買替えの必要性を認め、これにより算定すると、以下のとおり、一〇二三万八五八二円となる。
二三四万二〇一四円(既払分)+二三四万二〇一四円(定価)×(〇・七八三五+〇・六一三九+〇・四八一〇+〇・三七六八+〇・二九五三+〇・二三一三+〇・一八一二+〇・一四二〇+〇・一一一二+〇・〇八七二+〇・〇六八三)(ライプニッツ係数)=一〇二三万八五八二円
(3) 介護用ベッド 五七万二一二九円
介護用ベッドについては、平均余命期間の五六年間につき、今後、八年ごとの買替えの必要性を認め、将来公的補助が得られるか否か確実とはいえないので、定価の二七万三〇〇〇円(甲第二九号証)を基礎として算定すると、以下のとおり、合計五七万二一二九円となる。
三万七六五〇円(既払分)+二七万三〇〇〇円(定価)×(〇・六七六八+〇・四五八一+〇三一〇〇+〇・二〇九八+〇・一四二〇+〇・〇九六一+〇・〇六五〇(ライプニッツ係数)=五七万二一二九円
(4) 介護用テーブル、洗髪器、うがいキャッチ 合計 五万一三五五円
甲第三〇号証及び弁論の全趣旨により、原告らの請求どおり認める。
(5) 蓐瘡防止用枕 一万八五四〇円
甲第三一号証及び弁論の全趣旨により、原告らの請求どおり認める。
(6) 体位固定クッション 六七五〇円
甲第三二号証及び弁論の全趣旨により、原告らの請求どおり認める。
(七) 家屋改造費 一七七八万五一九三円
家屋改造費については、原告由希代の症状の重篤さや甲第三九号証から原告主張の改造の必要性が認められ、甲第四四号証によれば一七七八万五一九三円を相当と認める。
(八) 自動車改造費 四四三万六七〇〇円
甲第三四号証によれば、自動車改造のためのリフト等架装代は一五〇万円と認められ、平均余命期間の五六年間につき、八年ごとの買替えの必要性を認め、これにより算定すると、以下のとおり、四四三万六七〇〇円となる。
一五〇万円(既払分)+一五〇万円(改造費)×(〇・六七六八+〇・四五八一+〇・三一〇〇+〇・二〇九八+〇・一四二〇+〇・〇九六一+〇・〇六五〇)(ライプニッツ係数)=四四三万六七〇〇円
(九) その他
整理ダンス、整理棚代、テレビ台、キャスター付ワゴンなどは、通常の生活をしていても必要な品物であり、事故との相当因果関係を認めることができない。
(一〇) 休業損害 二二六万五三二六円
原告由希代の主婦としての休業損害を算定すると、以下のとおり、二二六万五三二六円となる。
三二九万四二〇〇円(平成七年賃金センサス第一巻第一表の女子の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金)÷三六五日×二五一日=二二六万五三二六円
(一一) 逸失利益 五六九七万〇八八三円
原告由希代の症状固定時の年齢である二六歳から就労可能な六七歳までの四一年間にわたり一〇〇パーセントの労働能力を喪失したことによる逸失利益を算定すると、以下のとおり、五六九七万〇八八三円となる。
三二九万四二〇〇円(平成七年賃金センサス第一巻第一表の女子の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金)×一七・二九四三(四一年間のライプニッツ係数)=五六九七万〇八八三円
(一二) 入通院慰謝料 四〇〇万円
入院期間が五七〇日間に及んでいることなどに照らし、入通院慰謝料としては、四〇〇万円が相当である。
(一三) 後遺症慰謝料 二六〇〇万円
後遺症慰謝料としては、二六〇〇万円が相当である。
(一四) 以上の(一)ないし(一三)の小計 一億七七二八万二三三七円
2 原告彰の損害(慰謝料) 五〇〇万円
原告彰は、妻である原告由希代が常時介護を要する重篤な後遺障害を残すに至ったため、妻の介護に加え、二人の子供の養育等、多大な負担を負っていることを考慮し、慰謝料として五〇〇万円を認める。
3 好意同乗減額及び損害てん補
(一) 好意同乗減額
前記のように公平の観点から二〇パーセントの好意同乗による減額を行うと、原告らの損害額は以下のようになる。
(1) 原告由希代 一億四一八二万五八六九円
(2) 原告彰 四〇〇万円
(二) 損害てん補
原告由希代に関しては、前記の争いのない損害てん補額である三五二八万二八八〇円を差し引くと、一億〇六五四万二九八九円となる。
4 弁護士費用
本件の弁護士費用としては、原告由希代について一〇〇〇万円、原告彰について四〇万円が相当である。
三 結論
よって、(一) 原告由希代の本件各請求は、(1) 被告唐倉及び被告有村に対し、連帯して、一億一六五四万二九八九円及びこれに対する本件事故日である平成六年一〇月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、(2) 被告日動火災に対し、右被告らと連帯して、右被告らに対する判決が確定するのを条件として一億一六五四万二九八九円及びこれに対する本件事故日である右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、(二) 原告彰の本件各請求は、(1) 被告唐倉及び被告有村に対し、連帯して、四四〇万円及びこれに対する本件事故日である右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、(2) 被告日動火災に対し、右被告らと連帯して、右被告らに対する判決が確定するのを条件として四四〇万円及びこれに対する本件事故日である右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上繁規 馬場純夫 田原美奈子)